膝関節痛に悩む方へ

膝関節痛について

膝関節痛のメカニズム

膝関節(ひざかんせつ)は体の中で一番大きな関節です。ここでは大腿骨(だいたいこつ)(=ふとももの骨)の下の端のまるい部分{=大腿骨顆部(だいたいこつかぶ)}が、脛骨(けいこつ)=すねの骨の平らな部分にうまくはまり込んで関節を作っています。また膝関節の前の部分には膝蓋骨(しつがいこつ)(=おさらの骨)があり、ふとももの筋肉の力がうまく働くようになっています。膝関節は曲げたり伸ばしたりだけではなく複雑な動きをしていますが、人が立ったり歩いたりするときに体重を支える役割をにないます。また膝蓋骨にも大きな力がかかり、階段の登り折りや、立ち上がりでは体重の数倍の重さがかかるといわれています。

病気の進行 (変形性膝関節症、関節リウマチ大腿骨顆部壊死)


膝関節の病気には変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)、関節リウマチ大腿骨顆部壊死(だいたいこつかぶえし)などがあります。あなたの膝関節の病気が何であるか、担当医師にたずねてみましょう。病気のために関節の形がいびつになり、関節の動きが悪くなったり、さらに痛みがひどくて日常生活に大きな支障をきたすような場合には、何らかの治療が必要になってきます。

正常膝関節のレントゲン像

手術前のレントゲン像→手術後のレントゲン像

 

当院の治療

上述のような病気の場合、まずはできるだけ手術をせずに、飲み薬(痛み止め)や、はり薬、足挿板(そくそうばん)といわれる足の下にいれる底敷、または膝関節への注射などを試してみるのが普通です。それと同時に体重を減らす努力をしたり、あるいは大腿四頭筋(だいたいしとうきん)というふとももの前の筋肉を強くする練習をすることで、多くの場合は痛みが楽になり、普通の生活ができるようになります。また、手術が必要であってもできるだけ患者様自身の骨や関節を温存して(骨切り術など)治すように努力をします。しかし、その限界を越えた場合には、やむをえず人工の関節で置き換える必要がでてきます。

人工膝関節治療

日本で人工膝関節の手術が行われるようになったのは1970年代からで、その後多くの改良がおこなわれ、現在ではいろいろな種類の人工関節が使われています。一番よく使われているのは、大腿骨側が金属(コバルトクロム合金)やセラミックで、脛骨側は金属(チタン合金など)とプラスチック(超高分子量ポリエチレン)を組み合わせてできているものです。 これらの部品を骨セメント(ポリメチルメタクリレート)を使って骨と結合させます。
いろいろな改良により人工膝関節は、それより少し前から行われるようになった人工股関節よりもやや優れた結果が得られるようになってきています。


 

有効性

人工関節に置き換えることにより、痛みはほとんどなくなります。関節の動く範囲は手術前と同じか、少し良くなる場合が多いのですが、手術後のリハビリテーションが大切です(ただし健常関節ほどは動きません)。 さらに、痛みが取れてスムースに歩けるようになることによって、腰痛が軽くなったり、反対側の膝関節や足関節への負担が減少します。

限界

しかしここで注意しなければならないのは、人工関節はその字のとおり人工のものですから、長い間に骨との間の固定がゆるんでしまうことがあります。また人工関節の部品が少しずつすり減っていき、その時にできる非常に細かい粉末が人工関節のゆるみの原因になることもわかってきました。このように人工関節は永久的なものではありません。これまでの調査によりますと、一般的には術後10年間ではおよそ90%の人がゆるまずにもちますが、その後はゆるむ確率が徐々に増加していきます。また、どうすれば永久にゆるまないようにできるかなど、まだまだ未知のことも多く、予想よりも早く入れ替えの手術が必要になることもあります。

適応(手術が勧められる条件)

このようなことから人工膝関節の手術は、一般に患者様の年齢が60歳以上で、他に有効な治療法がない場合に勧めています。しかし慢性関節リウマチの患者さんの場合は、もっと若いうちに手術が必要になる場合もあります。

手術法、術後の経過

まず、膝関節を開き、傷んだ部分を取り除き、病気のために縮んでしまった靭帯(じんたい)(=関節をつなぐすじのようなもの)をもとの正常な膝関節の形になるように整えて、大腿骨、脛骨、膝蓋骨の人工の部品を固定するための準備をします。次に大腿骨側に金属またはセラミックで出来た部品を 脛骨側には金属とプラスチックで出来た部品を骨セメントを用いて固定します。膝蓋骨の部品はプラスチックで出来たボタンのようなものですが、これも骨セメントを用いて固定します。ただし膝蓋骨は状態によっては入れ替えないこともあります。まれにですが 固定のための骨が不足している場合は、他の所から取った骨を用いた骨移植が必要となることがあります。 手術後は、約2日間はベッド上での安静が必要ですが、3日目よりリハビリテーションを始めます。手術後1週めから歩行訓練を開始し、術後4週程度で退院できるのが普通です。ただし、骨移植等の有無、患者さんの全身状態により安静の期間が長くなることもあります。

両方の膝の手術が必要なとき

膝の人工関節が必要な患者様の場合、両方の膝が同じぐらい悪い場合がよくあります。 このような場合、片方ずつすることも両方同時にすることもできますが、年齢が若く(60歳台)体が元気で、特に他に病気がない場合は一度にしてしまった方が、入院も短くてすみますし、普通の生活に早く戻れます。 手術方法は片方だけの手術の場合と全く変わりませんし、手術後のリハビリテーションもほとんど同じに進め、4週程度で退院できるのが普通です。

 

合併症

手術中の合併症として、非常にまれですが、神経・血管の損傷や骨折があります。また、 麻酔薬(ますいやく)や抗生剤(こうせいざい)などの薬剤による副作用、輸血による副作用の可能性もあります。なお、輸血については、手術後に出た血液を自分に返す自己血輸血(じこけつゆけつ)を行って出来るだけ輸血を避けるように努めています。 手術後の合併症として主なものには感染、ゆるみなどがあり、非常にまれではありますが血栓性静脈炎(けっせんせいじょうみゃくえん)や肺塞栓症(はいそくせんしょう)をおこして死亡する例も報告されています。

手術治療後の注意点

普通の日常生活を送っていただいて結構ですが、椅子に座ったり、洋式トイレを使うといった、いわゆる洋式の生活の方が動作も楽で、手術後の人工膝関節にも望ましいでしょう。 また人工関節はあくまで人工のものですからいろいろな日常生活の制限が生じます。 あなたの膝関節について家族の方々にも理解していただき、協力してもらうことも大切です。